著者・監修者紹介
2021年3月29日に初版となった株式会社アスコムから発刊された本で、著者は小林博之氏で監修者は末武信宏氏です。小林氏は1960年生まれで1992年に順天堂大学医学部を卒業され、小児外科の勤務を経て、自律神経研究の第一人者としてスポーツ選手などの指導に関わり、順天堂大学に便秘外来を創設もされました。末武氏は1962年生まれで岐阜大学医学部を卒業され、日本美容外科学会の会長もされてアンチエイジング診療やスポーツ医学の研究をされています。
実際のトレーニングは割愛しましたが、写真で分かりやすく説明してあります。
最高の体調を引き出す超肺活
内容
肺が担っているもっとも重要な役割は呼吸、ガス交換です。呼吸は意識しなくてもできるため健康を考える時おざなりにしてしまいがちです。酸素と食べた栄養を結合させて生きるためのエネルギーを生み出し、肺から酸素を取り入れないと死んでしまいます。酸素と二酸化炭素のガス交換は気管支の先にある肺胞で行われ、肺胞は大きさ0.1mm程度で3億個から6億個あるといわれています。肺胞には毛細血管が網の目のように取り巻いて、そこから酸素は血液に溶け込み全身に送られます。エネルギーが生まれるプロセスで二酸化炭素が生成され、戻ってくるときには二酸化炭素が溶け込んでいて、酸素と二酸化炭素が肺胞でガス交換されます。
肺の機能が弱まると酸素不足になり、冷え性やむくみを引き起こし酸欠状態になった細胞はがん化の原因にもなる可能性があります。血中の酸素濃度が減ると呼吸の回数が増え浅い呼吸になり、自律神経を崩す原因となり免疫力も低下します。ウイルスや病気に負けない強い体を作るには諸悪の根源である肺の劣化を防ぐことが絶対に必要です。
肺の機能の衰えは自覚症状には表れにくく、20代ごろから加齢とともに低下し、喫煙者は40代以降に急速に機能低下が進行することがあります。COPDは喫煙経験者のおよそ15%に発症します。肺胞は一度壊れると再生できません。肺胞そのものを復活させることはできませんが、呼吸する力を強化し血液に取り込む酸素量を増やすことはできるのです。肺の機能は何歳になっても高めることはできます。その方法が肺活トレーニングです。日頃から肺を鍛えることで呼吸機能の低下を抑えることは可能です。
呼吸の際に肺そのものが膨張や収縮している気がしますがその機能はなく、胸郭にくっついている様々な筋肉が柔軟に動くことで胸郭が広がったり縮んだりして肺も膨張や収縮をします。呼吸のために使われる筋肉は、肋間筋、斜角筋、前鋸筋、脊柱起立筋、横隔膜などがありこれらは呼吸筋と総称されています。肺胞そのものは鍛えることができなくても呼吸筋ならアプローチは可能です。肺活トレーニングをすると血中酸素濃度を高めることができるのは呼吸1回の換気量が増えるからです。換気量とは呼吸によって出入りする空気の量で安静時は500ml程度です。死腔があるので平均350mlが肺胞でガス交換されますが、死腔量は肺胞が壊れると増えてしまいます。肺を鍛えて1回換気量を増やし、正常な肺胞が取り込む酸素量を増やせば死腔量の増加をカバーするだけの酸素を身体に取り込めます。
成人は1日におよそ2万リットルの空気を吸い込んでいて、空気の中にはほこりやカビといった粒子の大きなものから細菌やウイルスなどの小さな病原体まで体に有害な物質が含まれています。これらは気管に到達し、極めて小さな粒子だけ肺の奥まで侵入できます。線毛という筋肉でできた突起が高速で動いてウイルスなどの病原体が侵入してきても粘膜層が捕獲し咳とともに口に戻され食道に飲み込まれる仕組みがあります。仮に肺胞まで到達しても肺胞マクロファージという免疫細胞が待機し、病原体を殺傷して消化してくれます。肺が深刻な危険にさらされると血液中を巡回している別の免疫細胞を呼び寄せ病原体を撃退してくれる免疫システムもあります。この免疫システムを正常に維持するには肺そのものの健康を維持することが大切です。
肺の機能が低下するとCOPDになる可能性があり、肺の免疫力が下がるため肺炎が発症して命の危険にさらされる可能性が高まります。高齢者に増えている誤嚥性肺炎も肺の機能が衰えていることが発症の一因です。
呼吸をする際は口呼吸ではなく鼻呼吸をすることも非常に重要です。鼻の中の粘膜を通ることで空気は温められ、鼻毛がフィルターの役割をして清浄な空気だけ気道や肺に届けることができます。口呼吸をすると口腔内が乾燥して唾液の量が減って細菌数が増えます。マスクの効果も限定的で、新型コロナウイルスの防御効果を確認したところ、N95マスク、一般的なサージカルマスク、布マスクではそれぞれ21%、53%、83%がマスク内に侵入していました。副鼻腔には一酸化窒素があり、鼻呼吸すると一酸化窒素も一緒に肺内に到達し、血管を拡張する作用で酸素を取り込む量を増やし、また免疫の役割も果たします。
呼吸は無意識でも呼吸するため自律神経の支配下にありますが、意識的にその質を変えることもできるため、普段している呼吸をゆっくりと深いものに変えていけば副交感神経のレベルが上がり、自律神経のバランスを整えることにつながります。ゆっくりと深く息を吐く時間を長くすることが副交感神経を高めるために最も効果的な方法になります。
自律神経が整うと腸内環境まで良好になります。腸には輪走筋と縦走筋があり蠕動運動をさせていますが、蠕動運動は自律神経がコントロールをしています。自律神経のバランスがいいと腸内細菌もよくなり、人体のおよそ7割が集まる腸の免疫細胞が健全に保たれ肺の免疫力も保たれます。全身の血管は極小の毛細血管をすべて合わせると地球2周半の長さになるといわれ、すべての血管の血流が滞りなく流れていると免疫細胞が全身に運ばれ、自律神経は血流量を調整し血流の状態をコントロールしています。
肺炎とは気管支や肺に炎症をおこし肺の状態が著しく低下した状態を指します。肺炎にはウイルスや細菌が原因のものや、肺胞を包んでいる間質という組織が炎症を起こして発症するものなど分類によってさまざまな種類があります。間質性肺炎はウイルス感染などの急性の場合をのぞき1年以上の時間をかけてゆっくり進行します。はじめは階段や坂道を上がる時に息切れする程度ですが、病気が進行すると日常動作で痛みを伴う咳が出るようになります。COPDの人は間質性肺炎を発症しやすく命を落とすケースが非常に多いです。
免疫力が高く呼吸力が強くしっかり肺胞がガス交換をしていればそもそも低酸素血症にはなりません。体を守るためには肺を鍛える、これに尽きます。誤嚥性肺炎を予防するには呼吸機能を高めることが大切で、呼吸筋をほぐせば肺活量が増え異物が気道に入っても押し戻すことができるでしょう。
交感神経が過剰に働くと血管の収縮が過剰になり、体に充分な量の血流が巡らなくなってしまい、また血管の中を赤血球などが高速で流れていく際に血管内皮細胞を傷つけ血栓が生成され、その際に動脈硬化も進行します。糖尿病や脂質異常症も血管内皮細胞を傷つけますが、諸悪の根源は血流の悪化にあり、自律神経のバランスが乱れて血流が悪いと食生活を改善しても治療はうまくいきません。
がんを予防するのも酸素と栄養をたっぷり含んだ血液を全身にくまなく送ることが重要になってきます。肺活量を上げて血中の酸素濃度を高めることはがんの予防にも極めて有効となります。肺癌の原因の70%は喫煙ですが、近年の研究で女性ホルモンのエストロゲンと肺がんの発症との関連が指摘され、エストロゲンの補充療法を受けた人に肺がんの発症率が高いことが報告されています。大腸癌には腸内細菌が深くかかわっています。
多くの人が疲労感をかかえています。疲労も自律神経の乱れや血流不足が大きく関係し、脳の血流が不足して脳疲労を起こしていると考えられます。疲労物質が脳に溜まったままになっているとどんなに体を休めても疲れが取れず、疲労物質は認知症の原因物質でもあります。脳疲労を改善するには良質な睡眠をとることが重要で、睡眠の質が悪いのは夜になっても副交感神経の働きが上がらず、体がお休みモードになっていないからです。ブルーライトは交感神経を刺激するので寝る前はスマホはやめましょう。脳疲労を改善するには鼻呼吸を意識することも重要です。口呼吸をしていると脳の前頭葉の酸素消費が多くなり活動が休まないと報告されました。慢性疲労を放置するとうつ病のリスクがあり、脳腸相関といって脳が不安やストレスを感じると腸内環境が悪化し、腸内環境が悪化すると脳が不安やストレスを感じることで、腸内環境を良好にすることがうつ病などのメンタルトラブルに効果的と考えられます。肺活トレーニングで横隔膜が大きく上下する呼吸を続けると腰痛の予防にもなります。大きな呼吸で腹圧が高まりインナーマッスルが鍛えられ体幹が安定してきます。深い呼吸で血流もアップし筋肉に溜まった痛み物質などの老廃物を掃除してくれます。肩こりにも肺活トレーニングは役立ちます。
肥満は一般の人が考えているよりはるかに悪い健康状態であるといえます。肥満は免疫力の著しい低下を招きます。著しいダイエットは筋肉量を減らすため基礎代謝が下がりリバウンドしやすくなります。体に必要な栄養素の不足も免疫力を落とします。最適なダイエット法は肺を鍛えて自律神経と腸内環境を整えることに尽きます。
肺活トレーニングの方法はリラックスした状態から3-4秒かけて鼻から息を吸い、6-8秒かけてゆっくり息を吐くことが基本です。毎日無理のない範囲で1-3セットするといいでしょう。胸郭のトレーニング、肩甲骨のトレーニング、肋骨まわりのトレーニング、平泳ぎトレーニング、胸郭ねじりトレーニング、深呼吸トレーニング、菱形筋のトレーニング、後斜角筋のトレーニング、風船トレーニング、胸叩きトレーニング、前鋸筋トレーニングです。4名のモニターがこのトレーニングを2週間したところ肺機能があがりました。
自律神経を整えるためには、ゆっくり動く、ゆっくり話す習慣です。ゆっくり行動すると自分の考えを整理できて心にゆとりが生まれ、それが副交感神経の働きを高めます。腸内環境を整えるため善玉菌をサポートする食事としていろいろな発酵食品の摂取と食物繊維が必要です。
朝の習慣として朝日を浴びて体内時計をリセットし、コップ一杯の水を一気に飲み腸に朝が来たことを教えてあげるのです。昼の習慣として手の指で頭や手首をトントン軽く叩いてツボを刺激するタッピングと、自律神経を整える長生き呼吸法です。長生き呼吸法は起立の姿勢で両手で肋骨の下をつかみ、6秒口から息を吐きながら状態を前に倒して両手に力を入れて腸に刺激を与えます。そして3秒鼻から息を吸いながら背中を反らし、腸に刺激を与えていた両手の力を緩めていきます。これを1分間行ってみてください。夜の習慣は睡眠の質を上げるため、眠る3時間前には夕食を終え、39-40度の湯に15分浸かり、ブルーライトを浴びないようにしながら、ストレスをためないように3行日記で吐き出します。
感想
何が超肺活なのかよくわかりませんでした。呼吸筋のトレーニングは重要ですが、トレーニングで肺活量を増やして酸素濃度が増えて深い呼吸ができて自律神経が安定するというのはちょっと短絡的で、肺の病気についても首をかしげるような内容もありました。自律神経や腸については分かりやすく書いてありました。