自分で治す過活動膀胱の本

著者紹介

2019年7月20日初版の宝島社TJMOOKから発刊された本で、監修は楠山弘之氏です。楠山氏は1954年生まれで埼玉医科大学を卒業され、泌尿器科クリニックをされています。

自分で治す過活動膀胱の本

内容

急に我慢できない尿意が起こる、トイレに間に合わずもらしてしまうこともある、一日中何度もトイレに立ち寝ているときも尿意で目が覚める、こんな困った症状が出るのが過活動膀胱の特徴です。過活動膀胱を決定づける一番の要素は、急にトイレに行きたくなり我慢できないほどの尿意切迫感が週に1回以上あるということです。頻尿と過活動膀胱はイコールではなく、一般的な頻尿は切迫感が伴わず単純に排尿回数が多いだけであれば過活動膀胱ではありません。
過活動膀胱の原因は神経回路に異常がある場合と、神経回路と無関係であるものに分けられます。神経回路の異常は大脳に脳血管障害のあとがあったり、脊髄の病気などをかかえているなどの疾患が元になります。神経回路と無関係は膀胱自体の知覚の異常が元になっているのですが、その原因の多くははっきりしません。閉経の女性に過活動膀胱が多いことから女性に多い病気と思われがちですが、日本では男性の方が多い尿のトラブルです。それは前立腺肥大に伴って起きるからです。男性は尿道が長いので過活動膀胱の症状が出ても尿失禁にはなりにくいです。
尿意切迫感はなぜ起こるのかというとまだ尿が十分に膀胱に溜まっていないにもかかわらず、膀胱から異常な信号が脳に伝わり、急に尿意に襲われるというのが簡単なメカニズムです。神経回路の異常は尿意伝達のシステムに異常があることが明確です。内臓を支える骨盤底筋が緩み、子宮や膀胱が下に引っ張られることで神経も引っ張られ異常な信号を出してしまうという理由が挙げられ、これは男性でも同じことが起こります。膀胱が下垂すると前立腺肥大症が悪化することも指摘されていて、男女とも骨盤底筋のゆるみを改善することは過活動膀胱の改善や予防につながります。骨盤底筋が緩み膀胱などの内臓の落ち方が悪ければ腹圧性の尿失禁も現れ、同時に過活動膀胱が伴うと混合性尿失禁になります。加齢で血流が悪くなり膀胱の筋肉が硬くなるのも過活動膀胱を引き起こす原因の一つです。膀胱の伸びが悪くなると膀胱が知覚過敏になり異常な信号を脳に送るようになるのです。
過活動膀胱の症状の影に別の疾患が隠れている場合があります。膀胱がんは頻尿気味になったり、1年に1回くらいの血尿が出る程度で他は無症状のこともあり見過ごすこともあります。それ以外は膀胱炎・尿道炎・前立腺炎などの感染症や、膀胱・尿道結石、心因性、多尿、婦人科系疾患などがあります。泌尿器科では毎日のは尿状況を記録するように指導する場合があり、排尿する時刻、尿量、場所、尿失禁があればその時の状況など排尿日誌に記します。
今の排尿状況が嫌だなあと思ったら泌尿器科を受診しましょう。前立腺肥大症がよほど影響していない限りは手術に至ることはなく、多くが薬の服用で症状は改善します。認知症で飲んでいる薬の副作用で症状が出る場合もあります。治療は薬物療法の他に膀胱訓練をします。膀胱訓練とは計画的に排尿を我慢することで、膀胱にたまる尿の量を少しずつ増やし頻尿の症状を改善させます。膀胱は筋肉でできていて、血流が悪くなると繊維化が起こり、膀胱が硬くなって尿がためられなくなってしまいます。この訓練は尿意切迫感の強い人にとってはストレスにもなり注意が必要で、薬物療法の効果で症状が軽くなってから始めることもおすすめで、投薬治療と並行して行って下さい。尿もれが心配なら尿もれパッドを使うといいでしょう。膀胱訓練の方法は、膀胱に150ml程度溜まると最初の尿意がありますがこれは無視します。最初の尿意は気を紛らわせているとなくなるので、もう少し膀胱に尿が溜まるのを待ちましょう。2回目の強い尿意が来たらトイレに行きますが、この時は300ml暗い尿が溜まっていますので、いきんだりせずに自然に排尿しましょう。
健康な人は排尿回数は1日5-7回程度で総量800-200mlです。痰黄色~淡黄褐色で起床直後や水分摂取が少ない時は濃くなり、白く濁ったり泡立ちがある場合は異常が疑われます。排尿直後は無臭で時間がたつとバイ菌が繁殖しアンモニア臭を伴います。糖尿病の場合は甘い匂いがします。膀胱は腎臓から尿が送られてくると風船のように膨らんで、栓の機能をしている尿道括約筋を自分の意思で収縮させて締め、尿がたまっていきます。男性は40歳を過ぎたあたりから加齢とともに前立腺が徐々に肥大して尿道や膀胱を圧迫するようになります。前立腺肥大症の初期に過活動膀胱になり、前立腺肥大の進行に従って尿が出なくなり過活動膀胱になる場合が多いようです。前立腺が肥大する原因は、体内のホルモンバランスの変化が大きく影響していると考えられますがはっきり解明されていません。前立腺肥大症が原因で過活動膀胱の症状が出ている場合は、前立腺肥大症の治療をしなくてはいけません。治療は尿の流れを改善する薬物療法が中心となります。薬物療法でも改善しない場合は内視鏡手術で切除します。骨盤底筋がゆるんで膀胱が落ち込んで前立腺肥大の症状が出やすくなることもあり、検査で前立腺があまり大きくなっていないようなら骨盤底筋を鍛える体操を試してください。前立腺肥大症の予防には生活習慣の改善が最善で、禁煙、過度な飲酒をしない、規則正しい生活を送り、大豆製品を食べ、運動量を増やし身体を冷やさないことです。前立腺肥大により排尿後にパンツを濡らす場合があります。これは尿道の奥の球部尿道に尿が残っているためで、肛門の手前にある会陰部を押すと残った尿を絞り出すことができます。前立腺肥大が進行すると膀胱内に尿が残ったままになり、膀胱の横から押すようなイメージでお尻に力を入れて締め圧力をかけて残尿を押し出します。
膀胱は骨盤に包まれるような位置にあり、骨盤にある恥骨尿道靱帯と骨盤隔膜に支えられています。尿道の周りには尿道括約筋があり、この一連の筋肉が骨盤底筋群です。女性の場合は膣が骨盤底筋群につながっていて、この筋肉がゆるむと子宮などの臓器を支えることができなくなり、骨盤内臓器脱がおこります。骨盤底筋群を鍛えると排尿を促す膀胱の排尿筋の過剰な収縮が抑えられ尿意切迫症状も改善し、副作用のない薬物療法のような効果をもたらします。恥骨尿道靱帯と骨盤隔膜は自分の意思で動かせないので鍛えることはできませんので、残る骨盤底筋を自分の意思で動かします。

肛門から腹筋にかけて意識しながら骨盤底筋をキューッと引き上げるような動きを意図的に繰り返します。この動きは排尿中に途中で尿を止めてみてその感覚を覚えてください。正しくできていれば、内ももが引っ張られおへその下が硬くなる感じがわかると思います。最初はわかりにくくても続けていくうちにどこが骨盤底筋なのか意識できるようになっていくでしょう。この体操を毎日最低50回行い(連続でも細切れでも効果はあります)、約3週間で尿もれ症状が改善した人がたくさんいます。大きく深呼吸し肛門と膣を絞めて5秒間キープします。肛門を絞めて、膣を絞めて、尿道を絞めると2回唱えると5秒測れます。立ってやっても座ってやってもOKで、仰向けなどでいろんなシーンでもできます。骨盤底筋と連動する筋肉を鍛えると骨盤底筋はさらに強化されます。お尻から背中にかけてと内ももの筋肉がそれにあたり、鍛えるためにはスクワットが一番です。

生活習慣が乱れていることと過活動膀胱が発症する確率は比例しているといえ、生活習慣の改善が大切です。一番改善すべきことは肥満で、便秘の改善、運動不足の解消、アルコールやカフェインの多い飲み物・水の飲みすぎ、下半身の冷えを改善することも大事です。本気で減量するなら食事の改善が一番です。同時に運動を行って筋肉量を増やし痩せやすい体質にします。一口50回よく噛んで腹八分目で抑える食事制限を行いましょう。食べ物で過活動膀胱をよくするものはありません。柑橘系の酸味の強いものや、ワサビ・唐辛子などの辛いものは膀胱の粘膜に刺激を与えます。塩辛いものにも注意が必要です。過活動膀胱の症状がひどい時はカフェインやカリウムが多い飲み物も避けましょう。炭酸飲料も膀胱の収縮を誘発して過活動膀胱の状態を引き起こす報告もあります。冷えには弱いため、下腹部やふくらはぎを温めると効果的で、毎日湯船に浸かって温めるだけで症状が改善することもあります。
薬物療法で一般的に使う薬は大きく分けて2種類で、副交感神経の興奮を抑える抗コリン薬と交感神経を興奮させて膀胱をゆるめるβ3アドレナリン受容体作動薬です。処方薬はよく効き、症状が改善したら薬をやめてもいいか質問されますが、生活の質さえ良くなっていれば問題ありません。命にかかわる病気ではないので、生活の質に納得されれば飲み続ける必要はありません。
腹圧性尿失禁は骨盤底筋のゆるみで、出産と加齢や、肥満・便秘・喫煙などが原因となりますが、いずれも運動不足の場合がほとんどで、骨盤底筋を鍛え運動習慣を持つだけで改善することも多いです。
切迫性尿失禁は診断が難しい膀胱障害で、原因が不明な場合も多々あります。アルコールの摂取、喫煙、薬の副作用のことや、膀胱の病気や心因性の場合もあります。
溢流性尿失禁は、膀胱に尿が溜まっても尿の出が悪く、体を動かすとちょろちょろともれ出す症状が特徴です。下腹部にいつも張りを感じ、咳をすると尿がもれ排尿しにくくなります。尿道が狭くなることが引き金で、男性は前立腺肥大、女性は骨盤臓器脱で膀胱の下垂により尿の出口が閉じて発症することが多いです。糖尿病が原因となることもあります。
機能性尿失禁は、排尿機能は正常ですが半身まひなどの身体運動機能の低下や認知症が原因となる尿失禁です。介護を受けている場合が多く、介護者は一人で悩みをかかえずに主治医や介護福祉士などの力も借りましょう。
反射性尿失禁は事故などで脊髄が損傷して排尿コントロールができない状態で、骨盤底筋を鍛えても改善せず、泌尿器科で専門医に相談しましょう。
尿道外尿失禁は尿道の代わりに直腸や膣などを通って尿が体外に出ることで、生まれつきか手術や放射線治療によるもので、尿路再建手術が中心になります。
前尿失禁は尿道括約筋が損傷して膀胱を素通りして流れ出てしまう失禁で、前立腺肥大の手術、難産などで生じます。手術で人工括約筋を尿道に埋め込むなどの方法があります。
間質性膀胱炎は中高年の女性に多い疾患で、細菌性のものではないので抗生剤は効きません。原因ははっきりせず進行すると膀胱に50ml程度しか貯められなくなることもあります。初期段階で膀胱訓練や、刺激の強い食事や飲料を避けてストレスの解消に努めます。
夜尿症はいわゆるおねしょで、ホルモンバランスの崩れや睡眠剤の副作用で起こることがあります。就寝前の入浴で体を温めリラックスし、ストレスフリーを心がけましょう。
心因性頻尿は泌尿器系には異常がないのに急激な尿意に襲われたり頻尿になるもので、極度な緊張や不安による急激なストレスで、緊張感や不安が除去されれば落ち着くこともあります。

感想

体操やトレーニングがメインの本かと思っていましたが、過活動膀胱以外の尿失禁をきたす疾患についてもわかりやすいせつめいがあり、もちろんトレーニングや体操も写真入りで分かりやすく説明してありました。

 

CR医療相談所 > 医療記事一覧 > その他 > 自分で治す過活動膀胱の本

ページトップへ